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平成21年7月29日

土地家屋調査士ADRに関する雑感(T)

 

静岡県土地家屋調査士会 宮 澤 正 規

 

静岡県土地家屋調査士会が弁護士会と協働で「静岡境界紛争解決センター」(以後他会を含め同様な組織をADRセンターと呼ぶ)を設立し平成19年4月3日法務大臣指定を受けてから既に2年を経過した。法務局による筆界特定制度が施行されて以降各地の全国50に及ぶ土地家屋調査士会の中で現在30数会が法務大臣の指定を受けADRセンターを設立し愛媛会を始め数会はADR法に基づく法務大臣認定を受けているところである。

そもそも司法制度改革、規制緩和の議論をここでしたいと考えているわけでなく結果として設立されこれからも運営されていくであろうADRセンターについて土地家屋調査士の目線考えて見たいと思う。

大方の土地家屋調査士のADRセンターに関する見方は、「高いお金を取って民間の実施する調停に市民が相談にすら来るはずが無い」という意識が一般的ではないかと推察する。その一般的土地家屋調査士の意識はADRセンターが指定を受けてすでに2年を経過しているにもかかわらずまったく変化が無いといって良く会則に基づき研修(白鴎大学法学部和田直人講師)を受けている一部のADRセンター調停員あるいは運営委員の意識が少しずつ前向きに変化しつつあるといった現状ではないかと考える。

そもそも法務大臣認定土地家屋調査士の創設といった法改正も一般の土地家屋調査士についてはまさに驚きであった。既に4回目の認定土地家屋調査士を輩出することになるが全国およそ1万8000人の土地家屋調査士のうち認定されたのは4000人程度(4年間で)にすぎない。(これは、認定を絞っている結果ではなく特別研修受講者数そのものの問題である。)このままだと全ての土地家屋調査士が認定を受けるのにさらに14年以上を要することとなる。もっとも、認定土地家屋調査士に与えられた職務とは「ADRセンターに筆界(境界)を不明とすることを原因とする民事に関する紛争」の代理関係業務を弁護士と共同受任した場合に限り行えるといったものである。不思議に思うのは、すでに認定土地家屋調査士制度が施行されてかなりの年数が経っているにもかかわらずADRセンターすら設立されていない単位会が未だに相当数あるという事実である。なぜならば認定土地家屋調査士のフィールドはADR指定機関以外に存在しないのであるからADRセンターの無い地域の認定土地家屋調査士は活動のしようが無いと考えるのが一般的だと考えます。これらの事実から垣間見ることが出来ることは、ADRセンターの指定あるいは認定土地家屋調査士制度そのものを土地家屋調査士会が積極的に参画し更に土地家屋調査士制度のビジョンの中に取り入れようとしていたのかといった疑問が残るのです。すなわち、私達土地家屋調査士は、システムによって踊らされたのではないかと言う素朴な疑問です。

ADRセンターを有する地域は指定機関として機能しているのかといえば必ずしもそうではありません。相談員、調停員の人材育成が大幅に遅れているからです。また、認定土地家屋調査士になった土地家屋調査士に対する研修も不充分です。

さて、市民にとって境界問題の解決あるいは相談に最も身近な機関が裁判所(境界問題に限定すれば簡易裁判所)の調停だと考えます。そもそも簡易裁判所の調停委員会の有る数が、各単位会の地域においてたった1箇所であるADRセンターと比較して利便性が優位であることに疑う余地はありません。それはADRセンターにとって最も強力なライバル(すでに勝負あったと考える方が妥当か?)であると考えるのが一般的であると思います。加えてとにかく公的機関であるので利用料がADRセンターに比較して10分の1以下程度、さらに専門性でいうならば多くの土地家屋調査士が裁判所調停委員として参加しています。ここで不思議な現象が土地家屋調査士会で起きています。いわゆる土地家屋調査士会推薦の調停委員がADRセンターの運営あるいは実践にほとんど参加しないという事実です。ADRセンターは人材育成を含め調停実績も今日までほとんど皆無に近い状況にあるということが実情です。しかしながら、いわゆる私的測量鑑定は調停委員会では実施してはくれませんのでそのことに限定すればADRセンターもイーブンではないかと思います。また、ADRセンターの調停の場所については出張調停といった方法もあると思います。

さて、そうであるにもかかわらずADRセンターがどのような方向性をもって将来を展望し存在意義を見出して市民の境界問題解決に向けて運営していくのかを考えなければなりません。

私は、ADRセンターが思いっきり考えられる限り私的なものになる必要があると考えます。即ち権威、権力的な雰囲気並びに態度を含めすべての「上から目線」を一切排除する、更には専門家としての土地家屋調査士であることも含めていったん捨て去ることから始めることがADRセンターの原点であると考えます。調停員、相談員全てがまずその点を充分に認識したうえでさまざまな活動を実践していく必要があると考えます。もっと端的に述べれば、公平公正に接する心構えを堅持しつつ紛争当事者に徹底的に向き合い徹底的にお付き合いすることが必要不可欠であると考えます。

このようにADRセンターについて思いをめぐらせていくと心から我々に出来るのだろうかと言う不安な気持ちが湧いてきます。相談員の立場、調停員の立場、代理人としての認定土地家屋調査士の立場はそれぞれ異なりますが重複しますが唯一の共通点は紛争当事者と徹底的に向き合いお付き合いすることであると思います。

さて、言う事は簡単ですが我々にはたして出来ますでしょうか。

 

●土地家屋調査士ADRに関する雑感(U)はこちらにございます。